[100+] Shinichi Anasako

自己紹介をお願いします。

脚本、演出、演劇の作り手としてお仕事をしています。戯曲はモノローグを多く用いるなかで、発話のリズムや意味、喋ることと歌うこと、聞こえ方自体を問い直すのが最近のコンセプトです。2018年作「sad」からは個人の記憶を掘り下げていくことで、それがどこか社会に対する言葉になっているような気づきを起こしていく作品を作りたいと考えています。

芸術を始めたキッカケは何ですか?

小学生の頃、日本ではラップのブームが来て、わりとポピュラーなジャンルになっていたと思います。当時から自分でラップを書いたりしました。当時はお笑いや音楽が好きでその延長で演劇も好きになりました。よく北九州芸術劇場に芝居を見に行っていて、その中で段々演劇に対する興味の方が上回っていった感じですね。その後、高校のクラス別の発表会で自分が脚本・演出を担当して友達に演じてもらったことが、一番最初の演出経験かもしれないです。

ラップと演劇の関係性に関して、どういうふうに捉えていますか?

ラップの場合は、例えばユニットで4、5人いたとして、自分が歌うパートは自分で書くことが多いです。それはラップの特徴のひとつだと思います。元々、ヒップホップが生まれた歴史として、自分の状況を人に訴える方法として始まったので、その要素が今も残っている感じです。ラップは基本的に、“その人が本当に思っていることを歌う”という前提がありますね。それは歌っている人自身の言葉なので、ラッパーはみんな作家であり俳優であると言えますね。

演劇を始めたキッカケは何ですか?

北九州芸術劇場のリーディングセッションで、東京から来たアーティストたちと一緒に作品を作る企画があって、それの出演者として参加しました。僕の時は桑原裕子さんの「甘い丘」をやりました。当時18歳くらいでオーディションに受かったのも初めてで、特に何の訓練も受けてないし舞台の出演経験もほとんどなかったので緊張しましたね。でもそこで北九州の俳優さんたちと出会えたり、劇場の人に認知してもらったり、横のつながりを形成し始めた時期でしたね。

劇団「ブルーエゴナク」について

劇団自体の目標は、大きく分けて二つあって、1つ目は地域や場所に限定されない作品を作って各地で上演できるようにすることです。2つ目は北九州の中で何ができるかを考えることです。メンバーは今6人いて、大学生や主婦の方もいるので、活動に制限がある方たちと北九州でどういう公演ができるかを一緒に考えていきたいと思っています。また、東京や京都にもメンバーがいるので、今の状況では難しいですが、フットワーク軽くやっていければと思っています。

最近はどういうものに興味を持っていますか?

TOKASのOPEN SITE 5という企画で、オーディオ作品を作りました。演劇における物語/流れと、ラップのようなサウンドの気持ち良さをどうやって同時に進めていくかを実験的にやっています。今回は3人の俳優と3本の音楽作品を作るコンセプトですが、モノローグや会話だけではなく、その間に歌や音楽が入るため、音楽と演劇の境界線がとても曖昧な作品です。サウンドクラウドとバンドキャンプ、YouTubeのオーディオムービーなどを使って配信しようと思っていて、なるべく多くの方に聴いていただきたいと思っています。音楽はHIPHOPのレジェンドのような方ですがOlive Oilさんが担当して下さり、それに合わせて僕がテキストを書きました。

今までのお仕事の中で一番印象に残っているエピソードをひとつ教えてください。

北九州芸術劇場主催のフェスティバルで、街や商店街などのロケーションを使って演劇を作る企画がありました。僕は、走行中のモノレール車内を舞台とする「モノレール演劇」の作・演出を2014年から5年間やりました。モノレールというかなり大きな制約を踏まえて作品を創作しないといけなかったのですが、若いうちにそういう経験をさせてもらってきたことが今の作風やキャリアにも繋がっていると感じます。

演劇の魅力を教えてください。

アバウトさ(ABOUT)かなと思います。自分が今やっている演劇が自分が今まで見てきた演劇とどういう共通点を持っているのかがよく分からなくて。もしかしたら今演劇と呼ばれているものたちに、そもそもルールなんてないのかもしれないという気づきがありました。僕がラップを使って何かを見せようとしたら、誰かがそれを新しい演劇だと言ってくれるかもしれないし。演劇はどういう形でも成立するということを、先輩たちが実践で切り開いてきてくれたからこそ、敢えてABOUTでいることを色んな人が許してくれている感じがします。つまんなくない限り、怒られない。そういう場所な気がします(笑)。受け入れてくれる場所だなと思いますね。

影響を受けたアーティストや作品がありますか?

小学生の頃からラップが好きで、結構影響を受けたと思います。当時の好きなラップグループでは、KICK THE CAN CREW 、RIP SLYME、ケツメイシ、MICADELIC、餓鬼レンジャー、優劣つけられないくらいみんな好きです。あと古谷実先生の漫画をよく読んでいました。『ヒミズ』とか『シガテラ』とか、個人の日常と社会の繋がり、葛藤が描かれるような地味な話が好きでした。映画ではロバート・ロドリゲス監督が好きです。『From Dusk Till Dawn』『Planet Terror』みたいなエンターテイメント性だけじゃなくて、監督の個性が出てる、ちょっと気持ち悪い感じとか妙に生々しい癖があったりするものが好きですね。

作品を作る際、どういうところを目指していますか?

語感、つまり「言葉の感覚」を重視します。例えば、物語やプロットの面白さでお客さんを惹きつけていくようなことはどこかで諦めていますね。今は、俳優さん自身の声とか空間自体が持っている音が総合したときに、そのフィーリングが良いかどうかっていうのを大事にしています。俳優さんが喋っている内容自体が意味を持っているからこそお客さんにそれにちゃんと集中してもらうために、聴き心地/サウンドとリズムを考えながら作っています。俳優さんの言葉を音楽的に作ることで作品全体がもつ聴きやすさと一つの雰囲気を作ろうとしています。

コロナ時代の芸術について

実はコロナ以前から結構絶望的だったと思うんですけど…もしコロナがなかったら、東京オリンピックが開催されていて、予算がなくなって、芸術や文化に対するお金が割かれて…ていう話も聞いて。同時に都市と地域、富裕層と貧困層の差みたいなものも段々わかりやすくなっている社会でしたから、色んなところで言われていた「分断」を少なからず感じていました。誰の目にもつくようなレベルで完全におかしくなってきていた。そんな中、コロナが蔓延したことで世界レベルでみんな同じ危険を経験していることが、次の社会に繋がることはないだろうかと考えています。

何を届けるか、何を伝えるか、何が共有できるかを考える機会でもあるなと思います。いかに自己探求して、自分を掘り下げて、それを社会とどう繋げるかというアーティストとしての名分をコロナ禍で考えさせられたし、今度は何が実践できるかを考えるようにもなりました。今までは北九州のお客さんに何ができるかを考えていたのが、これからは世界に対してということになっていく気がします。責任を伴うことと同時に、もしかしたら思いもよらない人に届く可能性があるかもしれないというのは、不謹慎かもしれないけど、あんまりネガティブな気持ちだけではないですね、僕は。

コロナ時代での創作方法や新しいアプローチなどはありますか?

2020年9月に豊岡演劇祭というフェスティバルで、兵庫県の豊岡市竹野町にて、現地の盆踊りの振興会の方と作品を作ってきました。街の人と出会って、取材を繰り返す内に、本番で演奏してもらえるようにもなったんですね。その時に、盆踊りの歌がどういう歴史の中で生まれてきたかや、地域に根付いている風習や言い伝えなどの民族的なリサーチをしました。今のコロナの時代に、社会的な活動が制限されている苦しみを踏まえて作品を作るときに、私たちの先祖やそもそもの人間の営みを知ることによって、もっと長期的な価値観を得たいと考えました。つまり〈今まであった事実〉にこれからのヒントがある気がしました。

アーティストとしての人生を振り返ってみると?

ずっと作品を作ってきたんですね。年に5ー6本、ワークショップ発表とか短編の戯曲も含めると10本近く毎年何かを作ってきたという計算になるんですけど。その速度でやってきて良かったなと思うのと同時に、やっぱり毎回次こそ本当に終わるかもしれない、もう何も出て来ないかもしれない、ていうのはあって(笑)。アウトプットが苦しい時期がいっぱいあったので、今年は作品の本数をしぼってちゃんと言葉を書こうと思っています。

今後の夢や目標は何ですか?

オペラを作りたいです。今までとは逆に、一つの場所で壮大さをもつ演劇にも興味を持ち始めました。今の時世から人間というものを振り返ってみたときに、愉快に、絶望しながらも、希望を描く作品を作りたいなと。壮大であればあるほど僕たちのちっぽけさも見えて来ると思うので。

穴迫信一

2012年に福岡県北九州市で「ブルーエゴナク」を旗揚げ。以降、全作品の作・演出を務める。地域との共同制作も多数。2018年度ロームシアター京都X京都芸術センターU35創造支援プログラム“KIPPU“選出。2020年セゾン文化財団セゾン・フェロー。

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